HOME > 法律コラム > 【本当にあった話】女性上司がノックもせずに脱衣室に入り、全裸の男性に話しかけたら逆セクハラ認定?
世間一般では「男性から女性」に対する行為をセクハラ、「女性から男性」であれば逆セクハラと認識されているだろう。
しかし、1986年に施行された男女雇用機会均等法により、セクハラは「男性から女性・女性から男性・同性から同性」への行為、全てを該当すると定めたのである。つまり逆セクハラという言葉は、実は通常のセクハラと全く変わりがないということになる。
しかしここで、一つの疑問が生じないだろうか。それは、逆セクハラも、セクハラと変わりがないならば、セクハラ裁判と逆セクハラ裁判の判決も似たような結果となるのかどうかである。
この問題について、武蔵浦和法律事務所代表の峯岸孝浩弁護士に伺った。
早速であるが、逆セクハラで訴える場合、過去女性が起こしてきた通常のセクハラ裁判と同じような結果となるのだろうか。
「セクハラには男性から女性に対する行為だけでなく、女性から男性に対する行為も含まれますので、理論的には同じような裁判結果になるはずです」(峯岸孝浩弁護士)
「しかしながら、逆セクハラの裁判の事例が少ないので私見になってしまいますが、通常のセクハラのケース(男性から女性)に比べると、逆セクハラの場合は立証の難易度や慰謝料の額に影響が出るのではないかと考えます」(峯岸孝浩弁護士)
理論上は同じになるはずが、実際は違うだろうと峯岸孝浩弁護士は言う。
「大阪高等裁判所平成17年6月7日判決の事例を紹介します。これは男性が女性上司から逆セクハラを受けたことを理由に訴訟を提起した事案です」(峯岸孝浩弁護士)
「具体的には、『女性上司は、男性が職場の浴室に入っていたところにノックをしないで浴室の扉を開けた。その後女性上司は、脱衣室内に入って全裸の男性に話しかけた』という行為が問題になりました。結論としては、裁判所は女性上司の行為は逆セクハラにあたらないと判断しました。理由は、女性上司の行為は職務である防犯パトロールの一環として行われたものと認定されたからです」(峯岸孝浩弁護士)
実際にあった判例を用いて解説して頂いたが、これには少々驚いたのではないだろうか。
恐らくこの話を聞いた方の多くが、もしも女性と男性が逆だったら同じような結果になるはずがないと考えたのではないだろうか。峯岸孝浩弁護士もこのように話している。
「しかしながら、この裁判で男性と女性の性別が逆だったらどのような結果になったでしょうか。よほどの緊急事態でもない限り、男性上司が女性の入浴中に浴室のドアを開けたり脱衣場にいる全裸の女性に話しかけたりする行為が、防犯パトロールの一環として許されるとは簡単にはいえないように思えます」(峯岸孝浩弁護士)
以前であれば、セクハラ行為をして喜ぶのは男性で、損をするのは女性、という考え方が一般的であっただろう。しかし、草食男子や肉食女子という言葉に代表されるように、性に対する考え方が徐々に変化しつつある現代では、もう少し柔軟に考えなければいけないのかもしれない。