HOME > 法律コラム > 何かと奢らせようとするパワハラ上司。嫌がってるのに奢らせようとするのはどんな罪?
従業員に目標を設定させ、達成した場合にインセンティブを与える。
その結果、従業員のやる気が上がり、それと同時に会社も成長するというマネジメントは一般的である。
しかし、そんな制度を逆に利用したケースがあるのはご存知だろうか。
それは、達成できなかった場合に何かのペナルティを負わせようとする行為である。達成させようとするための発奮材料かもしれないが、例えば、達成できなかった場合は「反省会」などと称して、その飲食費を奢らせるようなことである。中には、達成していたとしても、会社から達成金として支給されるボーナスに狙いをつけて、奢らせようとする上司もいるようだ。
今回はそんな無理矢理奢らせようとする上司の行為が、どんな罪になるのかを峯岸孝浩弁護士に伺ってみた。
「罪に問われるとしたら恐喝罪でしょう」(峯岸孝浩弁護士)
無理矢理奢らせようとすることは恐喝罪の可能性があると、峯岸孝浩弁護士は言う。しかし、こうも付け加えた。
「ただし、部下が上司に奢るということは多くはないとしても、交際の一環といえなくもないので、通常の交際との区別がしにくいはずです。そのため、よほど悪質な事案でない限りは、恐喝罪に問うのは立証が難しいと考えます」(峯岸孝浩弁護士)
恐喝罪になりえるかどうかは、通常の交際かどうかの区別と、その悪質性が問われるとのこと。
「パワーハラスメントとして熊本市の職員が停職6か月の懲戒処分を受けた事件があるのですが、これは恐喝罪に該当する可能性があると思います」(峯岸孝浩弁護士)
「この事件では、上司が部下に対し『床に正座をさせて長時間に亘り説教する』、『書類の決裁をしない』などの嫌がらせをしたうえ、寿司や焼肉など合計100万円以上を奢らせました」(峯岸孝浩弁護士)
この事件は2011年11月26日、熊本市が悪質なパワーハラスメントがあったとして、2名の職員に対して懲戒処分を行ったと発表したことで大々的に報道された。報道によると、2009年から約二年半に渡って、ほぼ毎日パワーハラスメントがあったとされている。正座をさせられている職員をみて所長は「指導熱心だなと思った」という。
「恐喝罪として処理されたか否かは不明ですが、普段の行為態様の悪質さからすると上司という立場を濫用して無理矢理奢らせたことは想像に難くありませんし、金額も非常識なほど高額ですのでとても交際の一環とはいえません。さすがにこのレベルでは恐喝罪に該当するのではないかと思われます」(峯岸孝浩弁護士)
セクハラやパワハラなどは、特に上司と部下という拒絶しづらい関係が成立している場合、長期間継続的に行われると、同意があったとみなされやすい特徴を持っている。
ただし「奢る、奢られる」ということが、その都度犯罪であると問われるような社会が良いとは言えないが、この熊本市の事件の様に、全てが同意の元、行われているとは限らないのも事実である。
最初から断ることができたら、勿論それが最良ではあるが、それ以上に現在よりもより抑止効果のある法律を考えることの方が、根本的な問題解決になりえるのかもしれない。