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「人身事故にしないでくだされば、すぐに10万円お支払いしますよ」という示談の罠

交通事故と聞けば、死亡事故を思い浮かべる人が多いかもしれません。
しかし実際は死亡事故よりも「当たった時ちょっと首が痛んだ」、「車体に傷が入った」などの軽い事故も多いのです。
今回はそういった軽い事故について考えていきます。

首を少し痛めた、あるいは肘をひねった、または後頭部を軽く打った程度の事故に遭遇

小学館「くらしの法律百科」(監修:鍛冶良堅、鍛冶千鶴子)を参考に、ケースを挙げます。

貴方はいつも通っている道に車を走らせています。信号で止まっていると、ドン、と鈍い音とともに体に衝撃が走ります。

首を少し痛めた、あるいは肘をひねった、または後頭部を軽く打った、かもしれない。

貴方は痛めたかもしれない箇所を摩りながら、後部を振り返りました。
相手の人はすぐに車を降りて来ました。そして運転席の窓際に顔を寄せ、こう言いました。

「私の不注意で申し訳ございません。お身体に支障はございませんでしょうか」

「あ、はい。ちょっと首が痛みます」

すると、相手は貴方の目を見て、言いました。どこか懇願するような目つきです。

「人身事故にしないでくだされば、すぐに10万円お支払いいたします、示談にしていただけないでしょうか」

一見しおらしい相手の対応に、貴方は「分かりました、いいですよ」と言いそうになるかもしれません....が、
ここに示談の罠が隠されています。

原則として、被害者は示談後に損害が拡大しても、その損害の賠償を求めることはできません

ここで解説ですが、示談とは『加害者が被害者に対して一定額の支払いを約束し、被害者はその一定額を超えて加害者に損害賠償請求をしないという、当事者間の合意のことを意味する』(同著より抜粋)と書かれています。

そして気をつけてほしいのは『後で障害が残る場合もあるので簡単に示談に応じないこと』です。

示談は法的に和解(民法695条)にあたります。

原則的に、被害者は示談後に損害が拡大しても、その損害の賠償を求めることはできないのです。

『首が少し痛む程度の怪我であっても、後になって悪化する可能性もあるわけですから、相手に懇願されたとしても、すぐに示談にするべきではありません』

示談成立後に追加請求が認められる場合

しかし示談とは双方にとって早めに進めておきたいもの。

最高裁は昭和43年3月15日の判決において、『示談が成立した時点で予想できなかった後遺症の発生は別途さらに話し合いできる』としました。

ですが、通常は合意した示談内容を変更することはできません。
弁護士の方と相談し、内容を十分検討した上で、示談に臨むことが好ましいでしょう。

示談は双方が和解するためのツール

相手方は腕時計をちらちらと見ています。どうやら急いでいるようです。
貴方は深呼吸して言いました。

「急いでいるのなら、どうぞ先に行ってください。私もこのような軽い怪我ですし、示談をと考えています。ですが、示談内容をしっかり決める時間が必要になります。またお会いして、示談をしっかり進めさせてください」

相手方は一瞬驚いたように貴方を見ましたが、すぐに頷きました。

「お気遣いいただき、有難うございます。申し訳ございません」

名刺をお互いに交換し、この場はいったん解散となりました。

貴方は相手方と連絡を取り、示談内容を弁護士の方に相談しました。

お互いに納得できるかたちで示談を決めることができ、なんとかこの交通事故の件は収まったようです。

法的な解釈、法的にいいとされる行動をとれるかは、普段の心がけ次第で天国にも地獄にも変わります。

よく気をつけてくださいね。

ライター  ハルノミチ