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院内感染の責任を問う場合、何を立証すべきか医療過誤専門の弁護士に伺った

院内感染とは、病院の入院患者が原疾患とは別に新たに罹患した感染症、または医療従事者が病院内において感染した感染症のことを言う。別名、病院感染や医療関連感染とも呼ばれている。

院内感染が発生する主な原因は人から人へ直接、又は医療機器、環境等による。特に、免疫力の低下した患者や子供、高齢者は、院内感染を起こす可能性が高いと言われている。

そんな院内感染について、医療法では明確に院内感染の対策が規定されている。病院側もそれに従い、対策は行っているのだろうが、入院患者ではなく、外来患者の場合、どこで感染したかが判断しにくいという特徴が院内感染にはある。

そこで今回は、院内感染にかかりその責任を病院に追求する場合、何を立証するべきなのか、またその立証する難しさがどれほどのものかを、医療過誤を専門にしている森谷和馬弁護士に伺った。

「感染した事実、病院に存在した事実、病院の過失」が重要

早速、院内感染の責任を問う場合、何を立証するべきか伺った。

(1)「その患者が病院入院中に細菌やウイルスに感染した事実」(森谷和馬弁護士)
(2)「入院期間中に、その細菌やウイルスが当該病院に存在した事実」(森谷和馬弁護士)
(3)「更に患者が細菌やウイルスに感染したことが病院側の過失(手落ち)によるものであることも証明する必要があります 」(森谷和馬弁護士)

MRSA院内感染訴訟ではどうだったか

MRSAという病原菌を元に院内感染したと、病院側に責任を追求したケースがいくつか存在する。MRSAは免疫力が低下している方の場合、感染症となってしまうことがあるのだが、実は健康な方からも検出されることがある。

健康な方も持っている病原菌となると、先程伺った(1)の立証は難しいのではないだろうか。

「MRSAは健康人も保菌していることがあり、当該患者自身が入院前から保菌していた可能性もないとは言えません。従って、患者側にとって、『入院中に初めて感染した』という(1)の証明は容易ではありません」(森谷和馬弁護士)

「当該病院内に細菌やウイルスが存在したという(2)の事実は、当該患者が入院していた時期に、同様の感染患者がいたことが明らかになったという場合でもなければ、患者には証明が困難です」(森谷和馬弁護士)

「(3)は、病院側が必要な感染防止対策を怠っていたことの立証ですが、細菌もウイルスも眼に見えない存在であるため、具体的にいつどのように当該患者に感染したのかが分からず、感染が病院側の手落ちによるものであるという証明は難しいと言えます」(森谷和馬弁護士)

院内感染の責任を病院に問うのは非常に難しい

ここまでの話を聞く限り、病院側に責任を問うことは非常に難しいように聞こえるがどうなのだろうか。

「裁判で院内感染させた病院側の責任を問うのは難しいと言えます。そのため、過去にMRSA感染に関して病院側に賠償を求めたケースは幾つかありますが、患者側の請求を認めた裁判例は殆どありません。しかし、感染させた責任ではなく、感染後の発見・治療の遅れを問題にしたケースについ ては、患者側が勝訴した例もあります」(森谷和馬弁護士)

「特殊な例ですが、レーシックという視力回復手術を行なった眼科医が、 手術器具の滅菌処理を怠ったとして起訴され、業務上過失傷害罪で禁錮2年の実刑判決を受けたケースがあります。角膜炎などの被害を被った患者は7人と多数であり、眼科医は約3か月半にわたって十分な細菌感染防止の措置を取らなかったと認定されています」(森谷和馬弁護士)

最も大事なことは感染予防対策

この時期に気を付けたい院内感染はインフルエンザで間違いないだろう。これまで院内感染について色々と触れてきたが、最も大事なことは感染予防対策である。

ポイントは「かからない」、「早期発見」、「広げない」の3つだ。

例えばインフルエンザは、ウィルスが体内に運び込まれた時点で感染する。

せきやくしゃみの症状があればマスクをする。あるいは口や鼻を覆ってしぶきを飛ばさない。外出したあとは手洗いとうがいでウィルスを体内に取り込まないよう徹底する。

感染対策を十分理解し、自分は勿論、家族や友人知人の身体を守って行くことが重要だ。

取材協力弁護士  森谷和馬 事務所HP
千葉県弁護士会所属。1976年に弁護士登録した当初から現在に至るまで、医療過誤・医療事故を患者側で手がけています。またその他に離婚問題や遺言、相続、遺産分割なども幅広く対応。

photo by MIKI Yoshihito

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