HOME > 法律コラム > 当期は消費税を納税したが、翌期は免除という場合の注意点(税理士 松嶋洋)
消費税の納税義務は、原則として前々期の消費税がかかる売上が1千万円超であるかどうかで判断しますが、納税義務があるかどうか、それは当期だけでなく、翌期も見る必要があります。
というのも、当期は納税義務があり、翌期は納税義務が免除される場合には、特殊な計算をしなければならないからです。
当期は納税義務あり、翌期は納税義務が免除される場合、当期の期末において保有する一定の在庫について、消費税の控除が認められないという制度があります。例えば、当期の末に税抜きで2000万円の在庫があれば、その在庫に係る消費税160万円(=2000万円×8%)分、消費税を納税する必要があります。
消費税は、仕入れた段階で消費税の控除が認められますので、在庫の状況について考えることが基本的にはありません。このため、この調整を忘れる方が多いので注意して下さい。特に、在庫が多く発生する小売業などでは、この調整を忘れて大きな税金を追徴されたという事例もあります。
翌期の納税義務は、翌期の前々期である前期の売上で原則判断します。このため、前々期だけでなく前期の売上も確認し、翌期の消費税がどうなるか、予め考慮しておかなければなりません。
反対に、当期は納税義務が免除されるものの、翌期は納税義務がある場合、納税義務が免除されていた期間に仕入れた一定の在庫については、翌期で消費税の控除が認められます。例えば、当期の末に、納税義務が免除されていた時代に仕入れた在庫が税抜きで2000万円あれば、その在庫に係る消費税160万円(=2000万円×8%)を、翌期の消費税の計算上、控除することができます。
納税者にとって有利な規定ですが、こちらも忘れる方が多いので、注意してください。
翌期で消費税の控除を受ける場合、在庫の明細などが必要になります。とりわけ、この規定の適用を受けると、消費税が還付される場合も多いです。消費税の還付申告の場合、税務調査が実施される可能性が大きいですので、予め用意しておきましょう。
ただし、これらの在庫の調整は、概算で消費税を計算する簡易課税の適用を受ける場合には、適用されません。原則的な消費税の計算をする場合のみ、注意してください。
●執筆:元国税調査官・税理士 松嶋洋 WEBサイト
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。国税局を退官後、経団連関連の税制研究所において、法人税制を中心とするあるべき税制の立案と解釈研究に従事。現在は、税務調査対策及び高度税務に関するコンサルティング業務に従事するとともに、税理士向けに税務調査・法令解釈のノウハウにつき講演執筆活動を行う。