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画期的な判例となった節税対策ーー「分掌変更に伴う退職金」とは(松嶋洋)

代表取締役が代表権のない会長に退く場合など、会社における地位や職務内容に大きな変動がある場合には、実際に会社を退職したわけではないものの、実質的に退職したことと同一であるため、分掌変更に伴う退職金を支給することが認められています。

一括でなく、分割も認められた「分掌変更に伴う退職金の支給」

この分掌変更に伴う退職金ですが、実質的に退職したと言えるのか、国税は非常に厳しいチェックをしています。その厳しいチェックを前提としたからか、最低限のルールとして、分掌変更に伴う退職金については、原則として未払にして後日支払うことや、分割払いを認めないという取扱いがなされています。このため、実務上分掌変更に伴う退職金を支給する場合には、必ず一括払いするように言われています。

しかしながら、分割払いでも問題がないという、画期的な判例(東京地裁平成27年3月3日判決)が昨年出されました。

一般の退職金は分割払いも問題なし

少し脱線しますが、一般の役員退職金については、退職さえすれば分割払いであっても、原則として法人の経費として認められます。資金繰りの都合など、合理的な理由があって払いたくても払えない、ということはよくあります。

実際に退職しないのに退職金を経費とすることができる、分掌変更に伴う退職金については、分割払いを認めてしまうと、安易な節税につながると考えられていたため、原則として分割払いは認めないという取扱いとなっていたのです。

しかしながら、一般の退職金に関する法律と、分掌変更に伴う退職金に関する法律は実は全く変わりません。あくまでも、国税の取扱いである通達において、両者の取扱いを分けていたのです。通達は法律ではなく、納税者や裁判所は従う必要はありませんから、このような判決が出ることもあります。

判決を信用しすぎてもいけない

このような判決が出ましたので、今後は分掌変更に伴う退職金を分割払いして節税する、といったこともできそうな気がしますが、実はリスクがあります。と言いますのも、国税はこの判決を受けて、通達の内容を変えていないからです。このような判決が出ても、それは一般的なものではないため、実務の取扱いは替えないというのが国税の本音と思われます。

安易な対応をする税理士だと、分割払いでも問題ありませんと答えてしまいがちですが、国税が100%負けを認めたわけではありませんので、従来と同様、原則として分割払いはせずに、一括で支給するべきでしょう。

●執筆:元国税調査官・税理士 松嶋洋 WEBサイト
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。国税局を退官後は、税務調査対策及び高度税務に関するコンサルティング業務に従事。

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