HOME > 法律コラム > 親権喪失の申立で多いのは児童相談所でもなく子供自身でもなく◯◯だった!
今年の3月、乳児の予防接種を拒否したという母親に対して、九州地方の家庭裁判所が「親権喪失」の決定を下していたことが先月の7日にわかった。親権停止ではなく親権喪失になった理由。それは昨年、乳児を自宅玄関前に放置(育児放棄)していたことから端を発する。
これを受けて児童相談所は、乳児を保護し、里親委託をしようとした。しかし、法定となっている予防接種を受けていなかったため、委託に出すことが出来なかった。ところが、予防接種を受けさせるためには親の同意が必要だった。そこで児童相談所は何度も予防接種を受けさせるように求めたという。しかし結局母親が同意することはなかった。そんな経緯が親権喪失という決定につながったようである。
さて今回は、この親権喪失について取り上げる。親権喪失となると、具体的にどんな状態になるのか。また親権喪失はそもそも誰が申し立てることが多いのか。木川雅博弁護士に伺った。
「親権の喪失とは、その名のとおり包括的に親権を失わせるものでして、お子さんの身上監護権と財産管理権の両方を失わせることになります」(木川雅博弁護士)
子どもを持つ親には、等しく親権という法律上認められた権利や義務が与えられるが、その代表が身上監護権と財産管理権である。
身上監護権とは、子どもの監護と教育をするという権利と義務である。財産管理権とは子どもの財産を管理することをいう。
つまり親権喪失とは、親が親であることを認められた法律上の権利を喪失してしまうのだ。
では親権喪失にあたって、具体的な期間は定められているのだろうか。
「親権喪失の期間には制限がありませんので、一度親権喪失の審判が下った場合は、喪失の原因となる親権者の行為が止んだと認められない限り親権を失うことになります」(木川雅博弁護士)
冒頭の例でいくと、育児放棄が元々の原因となっているため、親にその辺りの改善が認められないかぎりは永遠に喪失のままということだろう。
ちなみに現在は、最大2年間と期間を定めた親権停止という制度が2012年から始まっている。
この制度ができた背景には、一度喪失となると、親権の回復が難しいという実情が考慮されている。また親権喪失が持つ効果が強過ぎることと、仮に親権が回復されたとしても、親子関係の修復が非常に困難であることも関係している。
冒頭に触れたケースでは、児童相談所が親権喪失の申し立てを行ったようであるが、実際は誰が申し立てることが多いのだろうか。
「親権喪失の審判は、法律上はお子さん本人や検察官も申し立てることができますが、現実にはお子さんの親族が申し立てるケースが8割以上、児童相談所長が申し立てるケースが1割強となっています」(木川雅博弁護士)
最高裁判所事務総局家庭局の「親権制限事件の動向と事件処理の実情(平成24年)」によると、子の親族が申し立て件数は全体の88%を占めていたと発表している。また対象者は実父が33%、実母が57%だったという(その他には養父や養母)。
厚生労働省によると、児童相談所への児童虐待の相談件数は、平成2年から一度も減少すること無く増加しているという。具体的には平成2年に1101件だった相談対応件数が、平成25年度には73802件、平成26年度は88931件に上った。
冒頭述べたように、親権には子供の世話や、教育や躾をするということが含まれている。しかし、このことが、虐待であるにも関わらず躾だと反論する余地を与えてもいる。行き過ぎた暴力や暴言、あるいは育児の放棄は誰が何と言おうと親権の濫用だ。
もしも児童虐待を発見した場合は、まず何よりも先に児童相談所に相談してみることをお薦めする。