HOME > 法律コラム > 国税の最終兵器「評価通達6項」が納税者にとって迷惑以外の何ものでもない
相続税や贈与税がかかる財産の評価は、国税庁が交付している財産評価基本通達によって計算することになっています。この財産評価基本通達に基づいて評価して相続税や贈与税の計算をしていれば、原則として税務調査では問題はありませんが、その例外として、財産評価基本通達6項という規定で課税される場合もありますので注意が必要です。
この6項は、評価通達で評価した金額が、その財産の時価として著しく不適当と認められる場合に適用されるとされており、この規定が適用されると、評価通達で計算していても問題があるとして、別途国税が時価と思う金額で課税できるとされています。こうなると、多額の税金が課税されることになります。
著しく不適当といっても、具体的にどのような場合が著しく不適当にあたるのか疑問があります。しかしながら、その解釈について、明確に書かれたものはありません。いわば、国税のさじ加減で決まっているのが実情です。
裁判例などを検討した一例ですが、適用される場合として、例えば相続の開始直前に買った土地の評価などが問題になることが多くあります。財産評価基本通達で計算される土地の評価は、おおむね時価の8割程度になる、と言われます。このため、例えば相続開始の前日に1億円で買った土地も、いざ財産評価基本通達によって計算すると8000万円程度で評価され、差額の20%分節税されることがあります。
このため、直前に土地を買えば20%も節税できるのはけしからんと国税が判断して、財産評価基本通達で計算される金額ではなく、評価通達6項を適用して、直前に買った値段をもとに、相続税を課税された事例があります。
その他、最近増えているのが非上場株式の評価についてです。非上場株式については、財産評価基本通達の抜け道が多くあり、評価額を大きく下げることができる場合もあります。この下がる金額の程度にもよりますが、国税がけしからんと判断し、評価通達6項で課税されることがあります。
なお、以前あった事例では、監査法人などに評価させた金額で課税されたようです。このような金額は一般の税理士では計算できませんので、評価通達6項が適用されると極めて困難な事態となります。
とは言え、明確な基準がないため、注意したくてもできません。最終的には国税の判断になるため、税務調査でどこまでも交渉するしかないのです。評価通達6項が問題になる場合には、税務調査に強い税理士や、国税に顔が利くOB税理士などを活用しましょう。
●執筆:元国税調査官・税理士 松嶋洋 WEBサイト
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。国税局を退官後は、税務調査対策及び高度税務に関するコンサルティング業務に従事。