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弁護士が教える「事故物件を回避する3つの方法」

事故物件とは建物内での自殺や他殺、火事による焼死、不審死、事故死など人の死亡に係る事件があった物件のことを言います。

またこれら以外でも病死や老衰、孤独死なども含まれ、中には敷地内で死体が発見された場合でも事故物件と捉えるケースもあります。

ちなみに事故物件は,賃貸ならば賃料が,売買ならば売買代金が通常の相場よりも大変安いことが特徴です。
不動産広告には「事故物件」とわかりやすい表記はなく「告知事項有り」などと記載されているケースが多いようです。

そして事故物件かどうかの説明義務は契約前の「重要事項説明」時に行われます。

今回はこの事故物件について、賃借人あるいは買主として抑えておきたいポイントを岡村弁護士に伺ってみました!

説明義務(告知義務)が果たされなかった場合、解約したり損害賠償(損失補償)を請求できるのでしょうか?

まずはこの問題を考えるにあたり,注目すべき判例が二つあります。

【判例1】
一つは,マンションを単体(マンション全部)で売買した事例について,平成20年4月28日に言い渡された東京地方裁判所の判決(平成17年(ワ)第20687号売買代金等返還請求事件)です。以下,事例1とします。

マンションの一室から飛び降り自殺があったことを買主に説明しないまま通常の価格で売却したのですが,売買後にこの事実を知った買主が売主に対し,売買契約の解除と損害賠償を求めて訴訟を提起しました。もっとも,この事件では,買主は契約解除を撤回して,損害賠償のみを求めています。

この裁判では,裁判所は,売主には,売却対象マンションで自殺があった事実を買主に説明告知する義務があることを明確に認定しました。そのうえで,通常の売買代金額と事故物件として考えられる売買代金との差額,事故物件を入手させられたことに対する精神的苦痛などを考慮し,慰謝料名目で2500万円の損害賠償を認定しました。
この訴訟で買主が契約解除の主張を撤回したのは,買主としてすでにマンションを占有し,他に賃貸したりしており,解除することによる原状回復を回避する選択をしたためです。
従って,法律的に説明義務違反による解除が否定されたわけではありません。

【判例2】二つは,貸室の賃借人が貸室内で自殺したことにより,爾後,貸室を賃貸できなくなったとして,賃貸人が賃借人の連帯保証人に対して得べかりし賃料相当の損害賠償を求めた事例について,平成19年8月10日に言い渡された東京地方裁判所の判決(平成19年(ワ)第4855号損害賠償請求事件)です。以下,事例2とします。

この裁判では,裁判所は,自殺は賃貸人に対する善良なる管理者としての使用収益義務違反行為であるとしたうえで,自殺後3年分の賃料相当損害金の支払いを命じたのです。
これを賃借人の立場から捉え直すと,自殺の事実を告げられないまま通常の賃料で賃借させられた場合,自殺による減額分について,不当利得として貸主に返還請求するという法律構成が考えられます。

このように,売買においても,賃貸においても,対象物件における自殺は売買代金額,賃料額のマイナス要因となることを前提に裁判所は審理をしたわけです。

説明義務(告知義務)の基準はあるのでしょうか?

【判例1】
(1)裁判所は,「一般に,飛び降り自殺があった物件であることは,これを購入しようとする者,賃借しようとする者に主観的な忌避感を生じさせるおそれがある事実であり,・・・飛び降り自殺があった物件であることは,客観的にも経済的不利益を生ずる可能性がある。
したがって,不動産を販売する不動産業者としては,販売の相手方の購入意思決定に影響を及ぼすべき本件事故の事情を認識している以上,販売の相手方に対し,当該情報を提供する義務があるというべきである。・・・また,自殺事故による忌避感は,それ自体としては主観的要素に基づくものであるから,性質上,時間の経過により薄まっていくことは首肯し得るものの,本件売買契約当時,本件死亡事故からは未だ2年間を経過したにすぎないから,被告の告知,説明義務を消滅させるには至らない。」ときめ細かな認定をしました。そして,裁判所は,東京都の所轄部署においては,「自殺のあった物件を賃貸する場合は3年間,売却する場合は5年間,告知,説明の義務があると指導していること」も判決に引用しています。

(2)売却物件の場合,最低でも5年間は説明義務が存続すると考えるべきですが,業界では,6年程度を目安にしているようです。しかし,賃貸と異なり所有権が移転するのですから,買主には知りうる事実として自殺があったことを告げておいた方がトラブルを防止できると思われます。

【判例2】
(1)裁判所は,説明義務に関連して,「しかし,自殺事故による嫌悪感も,もともと時の経過により希釈する類のものであると考えられることに加え,一般的に,自殺事故の後に新たな賃借人が居住をすれば,当該賃借人が極短期間で退去したといった特段の事情がない限り,新たな居住者である当該賃借人が当該物件で一定期間生活をすること自体により,その前の賃借人が自殺したという心理的な嫌悪感の影響もかなりの程度薄れるものと考えられる。」としています。

(2)つまり,自殺後に新たな賃借人が介在することで,心理的嫌悪感が薄められる,としているのです。

(3)賃貸物件の場合,最低でも3年間は説明義務が存続すると考えるべきですが,やはり,自殺後の初回の賃借人には自殺の事実を説明したほうが無難と思われます。

契約時にどのようなことに注意すべきでしょうか?「瑕疵はありますか?」と聞くことが1番の対策のように思いますが,どうでしょうか?

(1)売買における買主としては売主及び仲介業者に対し,賃貸における賃借人としては賃貸人及び仲介業者に対し,率直に「自殺の有無」を問うべきでしょう。
そして,回答内容を書面化して取り付けておくべきです。

(2)さらに,特に完全に物件を支配することになる売買においては,買主独自で,近隣の聞き取りをすることも考えたほうが良いと思います。

(3)契約を締結してから自殺に気が付いた場合,売主あるいは賃貸人との法的紛争の勃発は回避できません。そうならないように,独自の情報収集が必要になるわけです。

取材協力弁護士 岡村茂樹

埼玉弁護士会所属。地元である埼玉で30年以上の活動実績があります。

交通事故や離婚・男女問題、相続問題などに力を入れています。

ライター  NB.A