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たった1%でもリスクが存在すれば、メリットが幾ら大きくても改めはしない国税

近年の税務調査では、用意する資料として、税務署に提出した申告書の控えのコピーも必要になると国税から指導されます。すでに提出しているにもかかわらず、何故コピーを用意しなければならないかと言えば、現状税務署において申告書の持ち出しが全面的に禁止されているからです。

私の現職時代から問題視されていたことですが、申告書を税務調査で持参した調査官が、酒に酔ったり居眠りをしたりして、申告書を紛失する事件が続発していました。その都度、幹部職員から厳重注意がなされていたわけですが、一向に改められないので、全面的に持ち出しを禁止した模様です。

申告書のコピーも必要になるのに提出は任意。しかし申告書を見なければ仕事にならないという矛盾

全面的に禁止したため、申告書の紛失は相当防げると思いますが、税務調査の現場ではただただ混乱するだけです。申告書の内容が正しいかをチェックするのが税務調査ですが、基礎資料である申告書を随時見ることができないと仕事になりません。このため、納税者に申告書の控えのコピーを用意するように指導するわけです。

ただし、申告書については控えを用意するかどうかは納税者の任意とされていますので、仮に控えがないと言われた場合、どのように取り扱うのか全くの疑問です。加えて、悪質な納税者であれば、申告書の控えの記載内容を、提出した申告書の内容と自分の都合のいいように変えて調査官に見せる、といった行為に及ぶリスクも考えられるわけで、このような税務調査は危険極まりないと考えています。

メリットよりもデメリットを優先

ところで、国税組織の考え方として、1%でもデメリットがある実務であれば、99%メリットがあるものであっても、その実務を禁止するというものがあります。現状、税務署はFAXやメールを送信することができないとしていますが、これは誤送信されるリスクがあるからです。FAXやメールを送信できれば、税務調査がスピーディーになるため、国税も納税者も大きなメリットがありますが、このリスクの方を重く見ているためこのような取扱いになっています。

結果として、申告書についても、厳格な税務調査を行うというメリットより、職員の不注意で紛失するデメリットを重く見ており、このような常識外れの取扱いになっているのです。深度ある税務調査、納税者に負担をかけない税務調査などと、掛け声は立派ですが実務が伴っていないのが残念なところです。

専門家プロフィール:元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。実質完全無料の相談サービスを提供する。

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