HOME > 法律コラム > 正確に理解している税理士も少ない借地権の課税問題を元国税調査官が解説
相続税に限った話ではありませんが、税務上、借地権の処理が問題になることが多くあります。建物などを立てるために地主から土地を借りた場合、税務上、借りた借地人は自分の土地の権利として借地権を認識することが通例です。この借地権ですが、他人間では権利金などという名目で取引されることもあります。
しかし、例えば地主が社長、借地権者(借主)が自分の経営する同族会社、といった場合、わざわざ権利金を支払うことはないでしょう。本来支払うべき権利金が支払われないとすれば、その分地主は損をして借地権者は得することになりますから、税務上は何らかの課税問題が生じることになります。
ただし、この借地権の課税問題は非常に複雑で、税理士も正確に理解している者があまり多くはありません。
実際の課税関係を複雑にしている理由の一つとして、同じ建物などを立てるために土地を借りているにもかかわらず、借主・貸主がそれぞれ法人か個人かで異なる課税関係になることが挙げられます。具体的に言うと、権利金のやり取りがない場合、原則として以下のような課税関係になります。
貸主・借主が共に個人の場合・・・・借主である個人に対して、贈与税の課税関係が発生する可能性がある
貸主が個人、借主が法人の場合・・・借主である法人に対して、借地権の受贈益課税が発生する可能性がある
貸主が法人、借主が法人の場合・・・借主である法人に対して借地権の受贈益課税が発生し、貸主である法人に対して権利金相当額の寄附金課税が生じる可能性無償返還を取り敢えずがある
貸主が法人、借主が個人の場合・・・借主である個人に対して借地権の一時所得課税等が発生し、貸主である法人に対して権利金相当額の寄附金課税等が生じる可能性がある
このように複雑な課税関係が借地権にはありますから、取り敢えずの対応として、税務上は貸主・借主の連名で、無償返還の届出を税務署に提出しておくことが通例です。この届出を提出しておけば、仮に権利金のやり取りはなくとも、上記のような課税がなされることはありません。
ところで、この届出は、「遅滞なく」出せばいいと言われていますので、税理士によっては、税務調査の直前に出しても問題ないという方もいます。
ただし、このような対応は極めて危険であり、専門書には遅くとも借地権を設けた事業年度の決算日までに提出すべき、とありますので、できるだけ早く出しておきましょう。
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在は税理士向けのコンサルティングを中心に118ページにも及ぶ税務調査対策術を無料で公開するとともに、法律論や交渉術に関する無料メルマガを配信中。