HOME > 法律コラム > 期限に間に合わない時の「取り敢えず期限内申告」の有効性を元国税が解説
とある税務調査の専門家が、税理士に対して取り敢えずの期限内申告という申告を薦めています。これは、顧問先企業の協力を得られず、決算に必要な資料が揃わない場合など、決算処理が難しい場合でも、取り敢えずわかる範囲で行うべきとされる申告です。
本来、法人税の申告は会社が適正に行った決算に基づいて行わなければならないとされています。このため決算ができない以上は申告もできないはずです。このため、取り敢えずの期限内申告はそんな法人税法の建前など関係なくやってしまえ、といういい加減なものです。
こんないい加減な申告をやるように言われる理由は、申告期限内に申告ができないと、大きな負担になる無申告加算税が課税されるからです。この無申告加算税は、通常の申告漏れに対して課される過少申告加算税よりも重いため、期限後申告は納税者にとって大きなマイナスになります。
期限後申告になるか期限内申告になるかは、原則として申告期限内に申告を行うかどうかで判断されます。このため、形だけでも期限内に申告しておけば期限後申告にならないと考えられるため、取り敢えずの期限内申告などという意味不明な申告をするべきなどと言われるのです。
このような取り敢えずの期限内申告については、申告だけを取り上げれば、有効と考えられます。確定申告は税理士が現実作成するとはいえ、会社が了承している以上は、有効な申告として取り扱われることになるからです。
一方で、国税としてはこのような取り敢えずの期限内申告を有効な申告と取り扱わないことがあるようです。適当な決算に基づく申告ですので、実態としては正しい申告をしたことにはならないという理屈があるからです。実際のところ、このような申告がまかり通ることで、無申告加算税を課税できないとすれば法の趣旨に合わないことから、国税としては苦々しく思っているのでしょう。
このように、取り敢えずの期限内申告でも申告そのものは有効と見られる訳ですが、全く法律上のリスクがないと言えばそのようなことはありません。困ったことに、取り敢えずの期限内申告を推奨する専門家も、このようなリスクがあることを理解していないと考えられます(以下次回)。
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在は118ページにも及ぶ税務調査対策術を無料で公開し、税理士を対象としたコンサルティング業を展開。