HOME > 法律コラム > 類似業種比準価額という評価で問題となりがちな「非経常的な利益の金額」とは
相続税の財産評価で問題になる非上場株式(取引相場のない株式)について、その評価方法の一つに類似業種比準方式という方法があります。この方法は、国税庁が公表する同じ業種の会社の平均株価を前提に、その会社の配当・利益・純資産の要素を加味してその会社の株価を計算する方法をいいます。
類似業種比準方式の計算上用いられる利益は、決算書の利益を意味するのではなく、その会社の法人税の所得について、所定の調整をした金額を意味するとされています。この調整の一つに、非経常的な利益の金額があります。
非経常な利益の金額とは、具体的には、保険差益や固定資産売却益など臨時的な会社の利益を意味すると言われています。ここで問題になるのは、この非経常的な利益の金額については、明確な規定がないため判断に迷うということです。
実際のところ、国税の内規においては、経常的な利益又は非経常的な利益のいずれに該当するかは、評価会社の事業の内容、その利益の発生原因、その発生原因たる行為の反復継続性又は臨時偶発性等を考慮し、個別に判定するとされているようです。個別に判断するというのがミソで、国税と納税者でよく見解が分かれます。判断が難しい場合には、専門家と相談しましょう。
ところで、非経常的な利益を差し引く以上、役員退職金などの非経常的な損失については非経常的な利益と相殺できるのか、といった質問があります。回答から申し上げますが、非経常的な損失は、非経常的な利益との相殺はできるとされています。
類似業種比準方式の計算上、非経常的な利益を差し引くのは、サンプルとしている会社のデータは比較できるよう臨時的な利益を除くべきという考えがあるからです。となれば、非経常的な損失にしても、非経常的な利益と相殺してしかるべきと考えられます。
このように、非経常的な利益と非経常的な損失は相殺して類似業種比準方式を適用することができますが、一点注意点として、非経常的な損失が相殺できるのは非経常的な利益の金額のみであり、それ以外は無理とされています。
このため、相続税の負担をみながら、考える必要があります。
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在は118ページにも及ぶ税務調査対策術を無料で公開し、税理士を対象としたコンサルティング業を展開。
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