法律問題は相談LINEで解決!

HOME > 法律コラム > 2019年度税制改正で創設された「個人版事業承継税制」を税理士が解説1

このエントリーをはてなブックマークに追加

2019年度税制改正で創設された「個人版事業承継税制」を税理士が解説1

2019年度税制改正においては、個人版事業承継税制が創設されました。この制度は、中小企業のオーナーが保有する株式に対する相続税や贈与税の納税を猶予する法人版事業承継税制にならった制度です。法人版事業承継税制は法人で事業を行う場合の特例であり、個人事業主については特に優遇がなかったことから、個人事業主についても同様の納税猶予を認めるべきとして、個人版事業承継税制が創設されたのです。

対象になる資産と注意点

個人版事業承継税制は、個人事業主が事業を承継する場合に発生する、後継者に納税の義務がある事業用資産の贈与税や相続税の納税を猶予するための制度です。ここでいう事業用資産については、原則として以下とされています。

事業用の宅地(400㎡まで)
事業用の建物(床面積800㎡まで)
その他、一定の減価償却資産

このため、事業において必要になる預金や、取引先に対する売掛金などの債権はこの制度の対象にはなりません。

小規模宅地の特例との関係

相続税の節税上、必ず考慮するのが小規模宅地の特例です。これは、被相続人などが事業や居住、そして貸付の用に供している宅地について、それを引き継いだ相続人が引き続き継続してこれらの用途に使う場合など一定の要件を満たす場合に認められる特例で、この対象になると最大で80%、評価額を減額させることが出来ます。

このように非常にメリットの大きい制度ですから、個人版事業承継税制の適用を受けようとする事業用の宅地については、個人版事業承継税制か小規模宅地の特例かどちらか一方しか使うことができないとされています。

有利不利判定が必要

このため。個人版事業承継税制と小規模宅地の特例のどちらを使うのか、その有利不利判定が必要になります。個人版事業承継税制のメリットは、納税が全額猶予されるとともに、小規模宅地の特例では認められない、贈与でも適用できることが挙げられます。

一方で、小規模宅地の特例のメリットは、上限はあるものの評価額をダイレクトに減らせるため、猶予と違って申告すれば処理が原則終わるということです。個人版事業承継税制は納税を猶予するものである、本来納税するべきものの期限を猶予するということなので、後日その猶予がなくなるリスクがあります。小規模宅地の特例は、税務調査で問題になることはありますが、きちんと法令に則って申告すれば、後日問題になることは原則としてありません。(次回に続く)

専門家プロフィール

元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在は118ページにも及ぶ税務調査対策術を無料で公開し、税理士を対象としたコンサルティング業を展開。

※注意事項:記載については、著者の個人的見解であり正確性を保証するものではありません。本コラムのご利用によって生じたいかなる損害に対しても、著者は賠償責任を負いません。加えて、今後の税制改正等により、内容の全部または一部の見直しがありうる点にご注意ください。

税務署なんて怖くない
税務署なんて怖くない
詳しくはこちら