HOME > 法律コラム > 委託のつもりが雇用契約とみなされ追徴課税!回避策は?(税理士 松嶋洋)
前回、給与と外注費の区分は5つの要件を総合的に見て判断すると申し上げましたが、調査官の立場に立てば、最も攻めやすいのは材料又は用具等の供与です。
これは、形にはっきりと残りますので、納税者を説得することが簡単だからです。実務上は、名刺の支給やロッカーの支給からネチネチ調査官が攻めることが多いと言われます。
このため、外注費として処理するのであれば、材料や用具等の供与をしてはいけません。
その他、給与と外注費の区分について税務調査対策を考える上では、契約書や請求書をきちんとかわす必要があると言われます。税務調査は実質を見ますので、これらの書類があっても関係ないことも事実ですが、これらの書類があれば税務署の指導に反論しやすいことも事実です。
特に、給与と外注費の区分はグレーゾーンで決め手がありませんので、書類をきちんと作っていれば、それだけで認めることも多いという印象があります。
ただし、契約書の内容には注意が必要です。物品を会社が支給するなど、誤って給与と見られやすい条項を書いてしまうと、それを基に給与に当たると指導されることがあります。内容については、税理士などの専門家に事前に確認を取るといいでしょう。
その他、給与と外注費の最大の税務調査対策は、外注先である個人事業主にきちんと事業所得として申告するよう指導することです。申告していなければ、きちんと税金を取るためにも、源泉徴収が必要な給与になると指導されることが多くあります。一方で、申告さえしていれば、多少なりとも税金を支払っていますので、そこまで厳格にチェックする必要もない、と調査官が判断することも多いです。
何より、外注先が事業所得として申告をしていれば、それを給与として課税する場合、申告内容を更正処分などを通じて税務署が書き換える必要があります。この作業はかなり面倒ですから、調査官としてもやりたい仕事ではありませんので、それだけで穏便な対応が期待できます。
調査官としては、後日のトラブルを考えて、できる限り納税者を納得させて税務調査を終えたいと思っています。給与と外注費は決め手のないグレーな世界ですから、調査官の本音としては、あまり検討したい内容ではないのです。
契約書や請求書を作らせ、外注先にきちんと申告させる。これだけでも相応の対策になりますので、徹底させましょう。
●執筆:元国税調査官・税理士 松嶋洋 WEBサイト
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。国税局を退官後、経団連関連の税制研究所において、法人税制を中心とするあるべき税制の立案と解釈研究に従事。現在は、税務調査対策及び高度税務に関するコンサルティング業務に従事するとともに、税理士向けに税務調査・法令解釈のノウハウにつき講演執筆活動を行う。