HOME > 法律コラム > 2019年度税制改正で創設された「個人版事業承継税制」を税理士が解説2
前回、個人版事業承継税制の対象になる事業用宅地は、小規模宅地の特例の対象にならないと解説しましたが、これに関連して注意点があります。それは、小規模宅地の特例の対象になる事業用以外の宅地、すなわち居住用の宅地や貸付用の宅地については、個人版事業承継税制の適用を受けていたとしても小規模宅地の特例の対象になるということです。
あくまでも、事業用の宅地について、個人版事業承継税制と小規模宅地の特例をダブルで使うことはできないというだけで、それ以外の宅地について、併用ができないという制限は原則としてありません。
個人版事業承継税制の適用を受ける場合の全段階の手続きとして、後継者は開業届と青色申告が必要になり、事業を後継者に承継する先代経営者については、廃業届と青色申告が必要になります。個人版事業承継税制の適用を受けない、通常の所得税の申告の場合、開業届や廃業届は、法令上は提出する必要があるとされていますが、仮にこれらを提出しなくとも、実務上あまり問題は生じません。このため、開業届や廃業届を出さないかたもいらっしゃいます。
一方で、個人版事業承継税制の適用を受ける場合には、これらの資料は法令で提出が義務付けられているため、届出がなされていなければ、この制度の適用を受けられない可能性があります。このため、きちんと提出するよう注意したいです。
次に青色申告ですが、これは通常の青色申告では足りず、65万円という高い金額の控除を受けられる青色申告が必要になります。青色申告の申請をした青色申告者のうち、きちんと複式簿記で経理して貸借対照表を作成すれば、その貸借対照表を確定申告書に添付して申告期限内に提出することで65万円の控除が受けられます。
このような取扱いになっているのは、個人版事業承継税制の適用を受ける財産は、先代経営者や後継者の貸借対照表に計上する必要があるとされているからです。65万円の控除を受ける場合に限って貸借対照表を作成することから、最低限このような申告をしなければならないとされているのです。
この点、近年は税務調査が厳しくなり、経理が甘いため65万円控除を受けられない、といった指導がなされる可能性がありますので、注意してください。
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在は118ページにも及ぶ税務調査対策術を無料で公開し、税理士を対象としたコンサルティング業を展開。
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