HOME > 法律コラム > 法人税や所得税は領収書がなくても経費になるが消費税は保存義務がある!
前回、領収書の保存がなくても経費にできると申しましたが、その取扱いはあくまでも法人税や所得税に関してです。消費税については、法人税や所得税とは異なり、領収書、正確には請求書や納品書などですが、これらの資料の保存がなければ問題になります。
消費税については、法人税や所得税とは異なり、請求書等保存要件が設けられています。ここでは、請求書等を保存しない限り、消費税の経費を意味する仕入税額控除ができないと明記されています。
この点、先の国税不服審判所の裁決事例では、法人税と消費税で異なる判断がなされたものがありました。具体的には、不正取引が疑われる、支払先の名義が異なる販売手数料の請求書等の保存があったものについて、法人税は販売手数料に関連する支払いがあったことは間違いないため経費になるものの、消費税は名義が異なる請求書等であり、仕入税額控除の要件を満たさないとされています。
経費になることは間違いないが、消費税の控除はできないとされていますので、消費税を申告納税する際は、法人税の取扱いに関係なく、請求書や領収書の保存に注意しなければならないことになります。
実際のところ、消費税の控除を受けるためには、請求書などを交付すべき事業者が作成した、書類の作成者の氏名(請求書の発行元)、取引の年月日、取引の内容、支払金額等の記載がある請求書を保存しなければならない、とされています。
交付すべき事業者が作成した資料が必要になりますので、クレジットカードで決済するような場合に、カード会社から発行される請求明細書だけでは、この要件を満たさないとされています。このような場合には、カード会社が発行する請求明細書に加え、実際にサービスや商品を購入した先から交付される請求書等を保存しなければなりません。(詳細はこちら)
ところで、このあたり税務調査を行う調査官はあまり気にしません。事実、私が以前勤めていた事務所のOB税理士は、支払った事実さえ分かれば問題ないため、保存する書類にはあまり気を遣わなくていい、などと適当なことをヌカしていました。
なお、請求書等の保存がなかったからといって、即国税が仕入税額控除の適用を否認することは原則としてありません。消費税の経費が1円も認められない、となるとやりすぎですから、慎重に対応しています。
もちろん、法律は保存がなければ全額ダメとされていますので、国税のこのような対応を期待することなく、保存には注意する必要があります。
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。税務調査で望ましい結果を得るための法律論・交渉術に関する無料メルマガを提供中